2年ぶりに新刊本を出版した。この本では、長年書きたくても書けなかった「魂(スピリット)」や「心(トラウマ)」の問題を「脳」や「体」の問題とともに多く取り上げた。
HSP(Highly Sensitive Person)の概念を提唱したエレイン・N・アーロン博士は、1996年に書かれた原著・第10章(魂とスピリット)で、「HSPには魂を意識するようなスピリチュアルなところがある」ことを議論している。
一方で、「今日ではHSPですら目に見えないものを経験したり信じたりということに対して懐疑的である。私たちは五感を信じなくなってしまった」とも述べている。
トラウマ(心の傷)をもたらすような急性/慢性の過剰なストレスによる生体の慢性炎症は、細胞のエネルギー不足をもたらし、生体本来が持つ出入力/誤差調整/生成消滅などのホメオスタシス(自然治癒力)が損なわれ、入力過敏/出力不全を起こすと考えられる。
昨年末に化学物質過敏症(MCS)についての新たな総説論文が発表され、「慢性/急性のストレス反応を引き起こす未解決の感情的トラウマが、MCSの発症に重要な役割を果たしており、効果的な治療の基礎となり得る」と結論している。
これは、慢性疲労症候群などの過敏性と呈する慢性機能性疾患は、トラウマに焦点を当てた心理療法やその他の療法を用いて根底にある感情的トラウマをターゲットにすれば、効果的に治療できる可能性があることを示唆している。
トラウマ記憶の治療は、心に潜在していた冷凍保存記憶を引き出し、機能麻痺した神経ネットワークを動かすことで、新たな認識や経験による記憶の書き換えをもたらし、それが過敏性/不耐性を改善すると考えられる。
「過敏性がトラウマと関係している」ということは日常診療的には「あたりまえ」とも思えるが、最先端の科学論文がその事実の一端を科学的に論証してくれた。
HSPが持つ感覚情報処理過敏性が「生来的な脳の扁桃体や松果体の機能亢進による」ばかりでなく、「環境ストレスに伴う感情的トラウマ記憶に関係した病態でもある」という仮説を、自分なりに臨床的に検証し、これから世の中に伝えていきたいと考えている。

令和7年3月10日
十勝むつみのクリニック
長沼睦雄